反応駆動学

カーボンリサイクルに向けた
限界打破への挑戦

Beyond the limit of carbon recycle

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研究概要

新反応駆動力を導入し
3 つの限界を突破

二酸化炭素(CO2)排出量±0を超えた未来社会「ビヨンドゼロ」の実現を目標とした研究開発に着手するには、より少ないエネルギーでCO2から必要な化学品を選択的かつ高効率に生産する常温・常圧・高選択CO2還元反応の実現が不可欠です。しかしこうした反応の実現は3つの理論限界によって阻まれているのが現状です。
本研究領域ではこうした理論限界を取り払うべく一旦基礎科学に立ち返り、原子ひとつからなる触媒活性点のスケール(Å)から、化学反応が起こる舞台である反応場のスケール(nm)、反応場の周囲にある物質輸送領域のスケール(µm)に至るまで、これまで利用されてこなかった反応駆動力を活用する新しい学理「反応駆動学」を追求します。複数の反応駆動力を相乗的に作用させることで、これまで不可能であった革新的な省エネルギー物質変換の実現を目指します。

代表挨拶

物質変換を語るうえで触媒は欠かせない機能材料ですが、そもそも触媒とは何でしょうか?この問いに対する答えとして、大抵の教科書には「化学反応において自身は変化しないが、反応速度を変化させる物質」という説明がなされています。この説明は1894年にF. W. Ostwardがはじめて「触媒」を定義してから125年間変わっていません。しかしこの「自身は変化しない」という触媒の定義は、触媒自体の反応駆動限界を決める原因にもなっています。例えばP. Sabatierにより提唱された「Sabatierの原理」は触媒能とその限界を説明する単純明快なモデルですが、これはまさに二酸化炭素の省エネルギー変換を阻む一因です。
素過程同士のトレードオフに由来する反応駆動の限界は、原子ひとつからなる触媒活性点のスケール(Å)以外にも、化学反応が起こる舞台である反応場のスケール(nm)や、反応場の周囲にある物質輸送領域のスケール(µm)に至るまで複数存在し、実はSabatier限界もそのひとつです。こうした限界を超えてゆかなければ「ビヨンドゼロ」は成し遂げられません。
本領域メンバーはこの理論限界を突破するための新しい反応駆動力に関する研究を先導してきた若手研究者であり、それぞれが持つ反応駆動の科学を高いレベルで融合することによって困難な課題に初めて挑戦できると考えています。それでもなお目標は大きく困難であることに変わりはありません。本領域は研究者6名からなるまだ小さな組織ですが現在の専門領域を超えたさらなる異分野融合を進め、国内外の研究者と連携、共同研究を推進できるよう尽力してまいります。どうぞ皆様のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

領域代表今岡 享稔

組織について

A01班

金属原子数個から十数個からなるサブナノ粒子は規則正しい結晶構造を持たず、液滴のように構造ゆらぎを示す非常にユニークな物質です。この構造ゆらぎによって触媒活性の理論上限であるSabatier限界の突破が期待されています。
当研究グループではこのサブナノ粒子が生み出す卓越した触媒性能の起源を探るとともに、第二元素、第三元素を含む合金サブナノ粒子へと幅広く展開しながら優れたCO2還元触媒活性点の構造要件を探ります。得られた活性点をA02班の反応場、A03班の物質輸送と組み合わせて革新的な物質変換システムの実現を目指します。

A 01

代表

今岡 享稔

Imaoka Takane

東京工業大学
科学技術創成研究院・准教授

2005年3月に慶應義塾大学にて博士(理学)を取得後、同大学の助教。2010年東京工業大学助教、准教授を経て現在に至る。途中、JSTさきがけ研究者(兼任)として従事。2017年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。
専門は金属ナノ粒子やサブナノ粒子の科学、電子顕微鏡による微細構造解析等。当研究領域ではサブナノ粒子によるCO2還元の活性点創出を担当。

A 01

分担者

葛目 陽義

Kuzume Akiyoshi

山梨大学クリーエネルギー
研究センター・准教授

2004年7月に英国Liverpool大学にてPhDを取得(Prof. David J. Schiffrinに師事)。スペインAlicante大学電気化学研究所博士研究員、慶応義塾大学理工学部化学科助教、東北大学原子分子材料科学高等研究機構助教、スイスBern大学上級博士研究員。途中、Marie Curie IIF (FP7) 研究員(兼任)として従事。2016年東京工業大学特任准教授を経て2020年から山梨大学クリーンエネルギー研究センター准教授(現職)。研究分野は電気化学、ナノ科学、分析化学。特にナノ固液界面における分光計測等。

A02班

大気中に存在するCO2の濃度はわずか400 ppmです。これを回収し、利用する科学が求められています。回収には細孔材料や塩基をはじめとする吸着材が活用され、利用にはCO2を付加価値の高い物質に変換する触媒が用いられます。これら回収・利用技術の連携によりビヨンドゼロに資する取り組みが期待されます。しかし、実際には吸着と触媒の駆動圧のギャップによってそれらの有機的連携が阻まれています。
本研究では吸着材の空間にCO2変換に有効な金属触媒を内包させることで、反応駆動圧の大幅な低減を狙います。A01班とA02班との有機的連携により、これまで難しいとされてきた内包金属触媒の構造・電子状態の制御及び基質の長距離輸送機構の制御も視野に入れた革新的材料設計を目指します。

A 02

代表

織田 晃

Oda Akira

名古屋大学大学院工学研究科・助教

2015年3月に岡山大学にて博士(理学)を取得後、同大学でさきがけ専任研究員として従事。2019年に名古屋大学助教に着任し、現在に至る。
専門は無機固体表面を利用した既存元素の新奇な構造・電子状態・物性の創出・解析・利用。革新的な吸着・触媒アプリケーションにつながる基礎化学の開拓を目指している。In situ分光と量子化学計算を駆使し、原子・軌道レベルで現象理解に努めている。当研究領域では吸着と触媒の相乗効果の発現のキモとなる合成と性能評価を担当。

A 02

分担者

西村 好史

Nishimura Yoshifumi

早稲田大学理工学術院総合研究所
・次席研究員(研究院講師)

2013年、名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻博士後期課程修了。博士(理学)(指導教員:IRLE Stephan教授)。國立交通大學應用化學系博士後研究員、分子科学研究所理論・計算分子科学研究領域特任研究員、早稲田大学理工学研究所次席研究員を経て、2018年より早稲田大学理工学術院総合研究所次席研究員(研究院講師)(現職)。研究分野は量子化学、計算化学。早稲田大学先進理工学部化学・生命化学科中井浩巳研究室において大規模量子分子動力学計算手法・プログラムの開発・実装・応用に従事。当研究領域では反応場の分子シミュレーションと理論的解析を担当。

A03班

A03班は、革新的CO2還元化学を達成するため、触媒反応場にCO2を選択的輸送供給し、また生成物を選択的に排出可能となる膜を創製する事を目的とします。CO2ガス分離膜には、ガス透過性(孔の大きさや、溶解性)が一定値で固定されると、選択性も固定されてしまうという問題があります。そこで本研究では、ガス透過性を常に転変させ、ガス選択性を固定させないこと、またCO2のポテンシャル勾配を膜内に形成することで、革新的なガス分離膜を創成する事を目指します。
具体的には、原子間の動的共有結合の可逆開裂を用いて、CO2による可塑化、膜の親水性を制御する動的高分子膜や、CO2親和性に勾配を持たせる事により、物理的にCO2を選択促進輸送するCO2高選択分離膜等の開発を実施する計画です。さらにA01班(今岡)、A02 班(織田)の触媒と、この創製するCO2高濃縮輸送膜を用いて、ハイパフォーマンス触媒デバイスの構築に挑戦します。

A 03

代表

齋藤 敬

Saito Kei

京都大学大学院総合生存学館・教授

2004年早稲田大学理工学研究科から博士を授与(応用化学専攻 西出博之教授に師事)。その後米国に渡り、2005から2007年までマサチューセッツ大学のグリーンケミストリー研究所でグリーンケミストリーの創始者(Prof. John Warner)の下、研究に従事。2007年、Principal Investigator(PI)、研究室の主宰者として豪州モナッシュ大学に赴任する。2020年9月までtenured Associate Professor として、モナッシュ大学でのグリーンケミストリー、環境調和型ポリマー研究を牽引。2015年10月から2019年3月までJST さきがけ研究員(兼任)に従事。2020 年10月より現職。英国王立化学会フェロー。

A 03

分担者

久保 祥一

Kubo Shoichi

東京工業大学
科学技術創成研究院・准教授

2006年、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員PD(2006-2008),ペンシルベニア州立大学訪問研究員,東北大学多元物質科学研究所 助教,物質・材料研究機構 主任研究員,JSTさきがけ研究員(兼任)を経て,2020年4月より東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所 准教授(現職)。液晶材料および高分子材料を中心とした自己組織化,リソグラフィ技術による微細造形,両手法を融合した機能材料創製に従事。本領域ではCO2輸送機能膜の基礎構造の探索を担当。

活動報告